突然ですが『Blue Giant』という漫画、ご存知ですか? 主人公がジャズサックス奏者を目指すという、珍しいテーマの漫画です。他にジャズを題材にしたものでは『坂道のアポロン』も有名ですね。これは主人公がピアニストです。
一昔前には『スイングガールズ』なんて映画もありました。女子高生がジャズのビッグバンドに挑戦するというお話でした。
あれ、ギターが全然出てこない・・・。
そうなんです、ロックやポップスでは花形のギターもジャズになるとなんだか存在感が薄いんです。それにジャズって、とかく「おしゃれだけど難しくて敷居が高い」なんて言われがちです。これはとても勿体無い話です。
ジャズ自体の面白さ、かっこよさはもちろんですが、ジャズギターの音の美しさを知らないのは人生の半分損してます(ホンマかいな)。
ジャズギターの音の個性は、通常のエレキギター選びとはちょっと違ったこだわりにも原因があります。特にジャズギターのイメージとして強いのはFホールのあるフルアコやセミアコ、いわゆる”箱モノ”、”アーチトップ・ギター”でしょう。
今回はジャズと箱ギターの切っても切れない関係について見て見ましょう。
■とはいえジャズも幅広いので・・・
一口にジャズと言っても、今やあらゆるサウンドの音楽がジャズに分類されていまして、正直ソリッドギターで歪んだ音、エフェクターを多用した音の方がしっくりくるようなジャズもあります。
ここでは話を分かりやすくするために、かなり強引ですがジャズを大雑把に2つのカテゴリーに分けたいと思います。
一つは「アコースティックジャズ」と呼ばれるカテゴリー。
ピアノ、ウッドベース(コントラバス)、サイズの小さいドラムのリズムセクションに、サックス、トランペットなどの管楽器が入った、生楽器中心のバンドはジャズのイメージとして定番だと思います。「アコースティック楽器中心のジャズ」ということですね。ビッグバンドもどちらかと言えばこのカテゴリーに入ります。
おそらく多くの方がジャズと聞いて思い浮かべるのはこのアコースティックジャズに近いものだと思います。
もう一つは60年代後半〜70年代頃に出てきた「エレクトリックジャズ」と呼ばれるカテゴリー。エレキギター、エレキベース、シンセサイザーなど電子楽器の進化や、ロックなどの新しい音楽の台頭に影響を受けジャズが「電化」していった結果誕生しました。
「クロスオーバー」や「フュージョン」と呼ばれる音楽もこの流れから来ています。
■重要なジャズの要素「即興」
もう一つ触れておきたいことが、ジャズでは即興演奏が重要な要素になっていることです。特に1940年代頃から出て来た「ビバップ」以降のジャズでは、曲のフォームとコード進行を維持したまま、即興のソロ回しをするというのが定番になっています。
つまりジャズでは、ソロを取る楽器として力があるかどうか、というのが重要になってくるんですね。
■ソロ楽器として力を得たギター
1930年代あたりのビッグバンド全盛の頃、ジャズにおいてギターは生音でサポートするリズム楽器でした。当時はエレキギターがこれから出てくるかどうかという時期ですから、それも当然です。
ビッグバンドの花形は生でも大きな音が出る管楽器やドラム。ギターは縁の下の力持ちどころか、生ギターの音量ではいてもいなくても大して変わらなかったかもしれません。
ところが1940年代初頭に革命が起こります。
1936年に発表されたGibson最初のエレキギター、ES-150を引っさげたCharlie Christian(チャーリー・クリスチャン)が、アンプで増幅された音でまるで管楽器のようなソロを弾いてみせたのです。それまでは日陰に隠れていたギターという楽器が、エレキギター&アンプという武器を得たことで一気にソロ楽器としての立場を獲得します。
■クリーントーンではフルアコの方が強力?
このチャーリー・クリスチャンが弾いていたギターES-150は、ノンカッタウェイのフルホロウボディにシングルコイルPUをフロントに1基載せた、いわば「アコギにマイクを載せただけ」とも言える仕様のフルアコです。
そもそも当時はソリッドギターの開発自体がそこまで進んでいませんので(テレキャスターが出たのが1949年頃と言われる)、エレキギターの選択肢としてフルアコがほとんどだったのかもしれません。
事実、チャーリー・クリスチャンの後に続く有名なジャズ・ギタリスト達はGibson製のフルアコを弾いていることが多いです。
ただ当時のPA技術や、深く歪ませた音やエフェクターがまだ一般的でなかったことを考えると、フルアコの方が簡単に良い音が出しやすいのは確かだと思います。フルアコはボディ内部が空洞なことにより、アンプを通した音もアコースティック感の足された太くて暖かい音になりやすいので、クリーン中心のソロ楽器としてはソリッドギターよりも手軽なのは確かです。
■現代では
ジャズギター=フルアコというのは先に述べた2つのカテゴリーではアコースティックジャズ寄りの発想であることが何となく分かると思います。
電子楽器やPAの開発が進んでいないアコースティックな音環境で、生の状態で強力な音の出る管楽器やピアノとソロ回しで張り合うためには、アンプ直で太い音が出るギターの方が有利なのは間違いありません。しかしこの「ジャズギター=フルアコ」は現代でも根強く残っているこだわりでもあります。
今最前線で活躍するジャズギタリスト達も、ジャズを学ぶ過程で40〜60年代のギタリスト達に憧れてフルアコを使っていることもフルアコ人気の理由の1つでしょう。
またソリッドギターでは得ることのできない”箱感”のある暖かい音は、やはり堪えられない魅力であります。またソリッドギターでロック的に深く歪ませた音が、アコースティックジャズのサウンドに合わせにくいということもあるかもしれません。
現代の若手ジャズギタリストの間では、エフェクターを多用するけれどもギターは渋いアーチトップというハイブリッドなスタイルも一般的になってきています。
今現在ギターは好きだけどジャズはあんまり・・・という方、この機会にジャズギターの音に着目して聞いてみてはいかがでしょうか?「水玉落ちる」とも形容されるアーチトップの音の美しさに気づいた時には、ジャズギターの虜になっているかもしれませんよ。
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